相続した実家が空き家になった。売るのはなんだかもったいない。思い出もあるし、貸せば毎月家賃が入る。そう考えて「とりあえず貸す」を選ぶ人は多い。
気持ちはよく分かる。ただ、貸すか売るかは、気持ちではなく10年間の手取りで比べてみると、見え方がかなり変わる。
この記事では、架空の空き家を使って、「今すぐ売る」と「10年貸してから売る」を円単位で比べてみた。
登場人物:実家を相続した伊藤さん
- 相続した家:地方都市の一戸建て、1978年築
- 今売れば:約800万円
- 貸すなら:リフォームに約200万円、家賃は月6万円くらい
伊藤さんは架空の人物で、数字も説明用の仮定だ。実際の金額は、地域と建物の状態で大きく変わる。
選択肢A:今すぐ売る
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 800万円 |
| 仲介手数料(800万円以下の上限) | −33万円 |
| 登記・印紙などの費用 | −約7万円 |
| 手取り | 約760万円 |
相続した空き家には、条件を満たせば売却益から最大3,000万円を差し引ける特例がある(1981年5月31日以前の建物、相続から3年目の年末までに売る、など)。伊藤さんの家は条件に当てはまるので、税金はほぼかからない。
手取りは約760万円。話はここで終わりだ。
選択肢B:10年貸してから売る
毎年の収支
| 項目 | 金額(年) |
|---|---|
| 家賃収入(月6万円、空室を見込んで9割) | 64.8万円 |
| 管理会社への委託料(家賃の5%) | −3.2万円 |
| 固定資産税 | −10万円 |
| 火災保険 | −2万円 |
| 修繕のための積み立て | −10万円 |
| 手残り | 39.6万円 |
年に約40万円。10年で約396万円になる。ここから最初のリフォーム代200万円を引くと、10年間の家賃の手残りは約196万円だ。
※ 家賃収入にかかる所得税・住民税は、減価償却などで大きく変わるため、ここでは含めていない。
10年後に売る
10年たつと、建物は築58年になる。土地の値段は変わらないと仮定しても、建物の価値はさらに下がる。ここでは、今より150万円安い650万円で売れるとしよう。
ここで大きな違いが出る。一度貸した家には、相続した空き家の3,000万円特例が使えない。 この特例は、相続してから売るまでの間、誰にも貸していないことが条件だからだ。しかも10年もたてば、相続から3年目の年末という期限もとっくに過ぎている。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 650万円 |
| 仲介手数料・諸費用 | −約40万円 |
| 売却益にかかる税金(約20%) | −約117万円 |
| 手取り | 約493万円 |
税金は、親が買った値段が分からないとして、売却価格の5%を取得費にして計算した。
10年後、並べてみると
| A:今すぐ売る | B:10年貸して売る | |
|---|---|---|
| 家賃の手残り(リフォーム代を引いた後) | 0円 | 約196万円 |
| 売却の手取り | 約760万円 | 約493万円 |
| 合計 | 約760万円 | 約689万円 |
10年間、入居者を探して、修繕に対応して、確定申告をして、それで約70万円少ないという結果になった。
しかもAの760万円は、今すぐ手元に入る。10年間の運用や、ほかの使い道を考えれば、差はさらに広がる。
差がついた3つの理由
- 最初のリフォーム代:貸すための200万円が、家賃の5年分を先に食べてしまう
- 特例が消える:貸した時点で、税金0円の切符を手放している
- 建物は待ってくれない:10年で、売れる値段が150万円下がる
それでも「貸す」が正解になるケース
もちろん、いつでも売るのが正解というわけではない。こんな場合は、貸す選択肢が有力になる。
- 家賃が高く取れる:駅に近い、人気の学区など。家賃が月8万円取れれば、計算はかなり変わる
- リフォームがほとんどいらない:すぐに貸せる状態なら、最初の200万円が消える
- 土地の値段が上がっている:建物が古くなっても、土地の値上がりが上回ることがある
- いずれ自分や家族が住む予定がある:その場合は、期限を決めて貸す「定期借家」という契約もある
まとめ:「もったいない」を数字で確かめる
空き家を貸すのは、立派な不動産投資だ。投資である以上、リフォーム代、空室、修繕、税金、そして10年後の売却価格まで含めて判断したい。
「売るのはもったいない」と感じたら、一度この表に自分の家の数字を入れてみてほしい。本当にもったいないのはどちらか、きっと答えが見えてくる。