3,000万円の家を売ると、不動産会社に払う仲介手数料は約106万円になる。軽自動車が1台買える金額だ。
そこで一度は考える。買い手は自分で見つけるから、不動産屋を通さずに売れないのか、と。実は隣の人が「その家、売るなら買いたい」と言ってくれていたりする。
結論から言うと、個人が自分の家を個人に直接売るのは合法である。ただし、仲介会社が裏でやっている仕事は消えてなくなるわけではない。誰かがやらなければいけない。この記事では、その仕事を1つずつ分解して、自分でできるもの、プロに頼むべきものを仕分けてみた。
そもそも、不動産屋を通さなくていいの?
いい。宅地建物取引業の免許が必要なのは、不動産の売買を「業として」、つまり繰り返し商売としてやる場合だ。自分が住んでいた家を1回売るだけなら、免許はいらない。
メルカリで自分の服を売るのに古物商の許可がいらないのと、だいたい同じ理屈である。逆に、安く買って高く売るのを何度も繰り返せば、それは商売とみなされる。
仲介手数料はいくらなのか
仲介手数料には法律で上限が決まっている。売買価格が400万円を超える場合、簡単な計算式はこうだ。
売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税
| 売買価格 | 仲介手数料の上限(税込) |
|---|---|
| 1,000万円 | 39万6,000円 |
| 3,000万円 | 105万6,000円 |
| 5,000万円 | 171万6,000円 |
これは売主と買主のそれぞれが払う上限なので、両方が仲介を使えば、取引全体では倍の手数料が動いている。
なお、2024年7月から、800万円以下の安い物件(空き家など)は、上限が30万円(税込33万円)まで引き上げられた。安い物件は手数料が少なすぎて不動産会社が扱いたがらない、という問題への対策だ。地方の実家などは、むしろ手数料の割合が高くなることもある。
仲介会社が裏でやっている6つの仕事
手数料の中身を分解すると、だいたい次の6つになる。
- 値付け:周りの取引価格から、売れる値段を見積もる
- 買い手探し:ポータルサイトへの掲載、チラシ、業者間ネットワーク
- 内覧の対応:日程調整、案内、質問への回答
- 物件の調査と説明:法令上の制限、境界、設備の状態などを調べ、買主に「重要事項説明」をする
- 契約書づくり:特約の書き方、手付金、引渡し日
- 決済の段取り:買主のローン実行、残債の返済、登記を同じ日にまとめる
1〜3は、買い手がもう決まっている個人間売買なら、ほとんど不要になる。問題は4〜6だ。
個人間売買でつまずきやすい4つのポイント
1. 買主の住宅ローンが通りにくい
これが最大の壁である。多くの金融機関は、住宅ローンの審査で宅地建物取引士が作った重要事項説明書を求める。個人間の取引ではこれがないので、ローンを断られたり、扱える金融機関が限られたりする。
つまり、個人間売買がすんなりいくのは、買主が現金で買える場合か、個人間売買に対応した金融機関を見つけられた場合が中心になる。
2. 売ったあとの責任
家を売ったあとに雨漏りやシロアリが見つかると、売主が修理代や減額を求められることがある。これを「契約不適合責任」という。
売主が個人なら、「引渡し後3か月まで」などと責任の期間を短くしたり、責任を負わない特約を結んだりできる。ただし、知っていた欠陥を黙っていた場合は、特約があっても責任を免れない。知っている不具合はすべて書面で伝える。これは個人間売買で自分の身を守るための一番の保険だ。
3. 名義変更(登記)
所有権の移転登記は、司法書士に頼むのが普通だ。報酬は数万円から十数万円ほど。自分でもできなくはないが、代金を払ったのに名義が変わらない、といった事故を防ぐため、司法書士がお金と書類を同時に確認する流れにしておくと安心である。
4. 境界と越境
土地の境界がはっきりしていない、隣の家の屋根がはみ出している、といった問題は、後から揉める原因になる。一戸建てや土地を売るなら、境界標があるかどうかを売る前に確認しておきたい。
全部自分でやらなくていい
「全部プロに頼む」か「全部自分でやる」かの二択ではない。部分的に頼める。
| やること | 頼める先 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 契約書の作成・重要事項の調査 | 不動産会社(契約業務だけを請け負うところがある)、弁護士 | 数万〜数十万円 |
| 建物の状態チェック | ホームインスペクター(建物状況調査) | 戸建てで10万円前後 |
| 名義変更 | 司法書士 | 数万〜十数万円 |
| 境界の確認 | 土地家屋調査士 | 内容による |
こうして並べると、個人間売買は「仲介手数料をゼロにする方法」ではなく、「100万円の手数料を、必要な分だけ買い直す方法」だと考えたほうが正確だ。
個人間売買が向いている人、向いていない人
向いているのは、こんなケースだ。
- 買い手がすでに決まっている(親族、隣人、友人、借りている人)
- 買主が現金で買える、または金融機関の目処が立っている
- 建物の状態や境界に大きな不安がない
逆に、買い手を一から探す必要がある、買主がローン頼み、築年数が古くて不具合が読めない、といった場合は、仲介を使ったほうが結果的に安くつくことが多い。
まとめ:手数料は「安心代」
仲介手数料の100万円は、たしかに大きい。ただその中身は、値付け・集客・調査・契約・決済という、一つでもミスすると100万円では済まない仕事の束だ。
個人間売買を考えるなら、まず「どの仕事を自分でやって、どの仕事を誰に頼むか」を紙に書き出してみてほしい。それで浮く金額が、自分で背負うリスクに見合うなら、やってみる価値は十分にある。