中古の家の内覧は、たいてい30分ほどで終わる。キッチンを見て、日当たりを確かめて、収納を開けて、「いい家ですね」と言って帰る。

でも、何千万円もする買い物で、床下も屋根裏も見ないまま決めていいのだろうか。人間なら、健康診断も受けずに生命保険に入るようなものだ。

そこで使えるのが、ホームインスペクション(住宅診断)である。この記事では、何を見てもらえて、いくらかかって、何が分からないのかを整理した。

ホームインスペクションとは

建物の専門家(インスペクター)が家を訪れ、劣化や不具合がないかを調べるサービスだ。目で見て、測って、叩いて音を聞く。壁を壊したりはしないので、売主の家を傷つける心配はない。

国の制度としては「建物状況調査」と呼ばれるものがあり、国の講習を受けた建築士が、決められた項目を調べる。民間のホームインスペクションは、これに加えて設備や内装まで幅広く見てくれることが多い。

何を見てもらえるのか

建物状況調査で見るのは、大きく分けて2種類だ。

見るところ具体的には分かること
構造の主要な部分基礎、土台、柱、梁、床、壁ひび割れ、傾き、シロアリ、腐れ
雨水が入るのを防ぐ部分屋根、外壁、窓まわり、バルコニー雨漏りの跡、外壁の割れ、防水の傷み

床の傾きは、内覧で見ても気づきにくい。1,000分の6(1mで6mm)以上傾いていると、構造に問題がある可能性が高いとされる。インスペクターは、レーザーの計測器でこれを測る。

いくらかかるのか

費用の目安は、戸建てで10万円前後。調べる範囲が狭いマンションは、それより安めのことが多い。床下や屋根裏にもぐって調べてもらうと、オプションで数万円が加わる。

3,000万円の家なら、およそ0.3%。「高い」と感じるか「安い」と感じるかは、次の話を読んでから決めてほしい。

インスペクションで変わること

買主にとって

  • 値引き交渉の材料になる:「屋根の補修に100万円かかる」と分かれば、その分の値引きを交渉できる
  • 買った後の修繕計画が立つ:どこに、いつ、いくらかかりそうかが分かる
  • やめる判断ができる:構造に大きな問題があれば、契約する前に引き返せる

売主にとって

売主が売り出す前にインスペクションをしておく使い方もある。

  • 買い手が安心する:「診断済み」の家は、それだけで選ばれやすい
  • 売った後のトラブルを防ぐ:不具合を事前に伝えておけば、売った後に責任を問われにくくなる
  • 瑕疵保険に入れる:検査に合格すれば「既存住宅売買瑕疵保険」に加入でき、引渡し後に見つかった欠陥の修理費が保険で出る

特に、個人どうしで家を売り買いするなら、インスペクションは相手を信用する材料になる。不動産会社という間に立つ人がいない分、第三者の目がより大事になるのだ。不動産屋を通さずに家を売る話でも、部分的にプロに頼む選択肢として紹介した。

不動産会社には説明する義務がある

2018年4月から、不動産会社は次のことをするよう法律で決められている。

  • 売買の仲介を頼まれたとき、インスペクションの業者を紹介できるかどうかを伝える
  • 重要事項説明で、インスペクションをしたかどうかと、その結果を説明する

ただし、義務なのは「説明」であって、インスペクションそのものは任意だ。不動産会社が勧めてこないこともあるので、受けたいなら自分から言い出す必要がある。

インスペクションで分からないこと

万能ではない点も知っておきたい。

  • 見えないところは分からない:壁の中の配管や、家具で隠れた場所は調べられない
  • 設備が動くかは別:給湯器やエアコンがいつ壊れるかまでは分からない
  • 未来の保証ではない:その日の状態を診断するもので、1年後に何も起きないことを約束するものではない

健康診断で「異常なし」でも、翌月に風邪をひくことはある。インスペクションも同じで、「大きな病気がないことを確かめる」ものだと考えるのがちょうどいい。

頼むときの3つのコツ

  1. 契約の前に頼む:売買契約を結んだ後では、結果を値段や契約に反映しにくい。申込みの前か、契約までの間に日程を入れる
  2. 売主の了解を取る:人の家を調べるので、売主(または仲介会社)の同意がいる。「インスペクションをしたい」と早めに伝える
  3. 不動産会社と関係のない業者を選ぶ:売る側と利害関係のない、第三者のインスペクターに頼むほうが安心だ

まとめ:10万円で買えるのは「知らなかった」をなくすこと

中古の家には、必ずどこかに古さがある。問題は古さそのものではなく、それを知らずに買ってしまうことだ。

10万円で、床下と屋根裏の「知らなかった」をなくせる。何千万円の買い物の前に、その保険をかけておく価値は十分にあるはずだ。

参考