「ローンがまだ20年残っているから、家は売れない」と思い込んでいる人は意外と多い。
結論から言うと、住宅ローンが残っていても家は売れる。実際、住み替えで家を売る人の多くはローン返済中だ。ただし一つだけ条件がある。売った日に、ローンを全額返せることだ。
この記事では、なぜそれが条件になるのか、返せない場合はどうするのかを整理した。
家には「抵当権」という鍵がかかっている
住宅ローンを借りると、銀行はその家に「抵当権」を設定する。返済が止まったら家を売ってお金を回収できる、という権利だ。登記簿を見ると、ちゃんと書いてある。
抵当権がついたままの家を買いたい人はいない。自分が買った家が、前の持ち主の借金のせいで競売にかけられるかもしれないからだ。だから家を売るときは、抵当権を消してから買主に引き渡す必要がある。
そして抵当権を消すには、ローンを全額返すしかない。
実際の流れ:売ったお金で、その日のうちに返す
「全額返すお金なんて手元にない」と思うかもしれないが、心配はいらない。普通は、買主から受け取る売却代金でそのまま返す。
引渡しの日(決済日)には、売主、買主、銀行、司法書士がそろい、次のことを同じ日にまとめて行う。
- 買主が売却代金を売主の口座に振り込む
- 売主がそのお金でローンを一括返済する
- 司法書士が抵当権を消す手続きと、名義を買主に変える手続きをする
事前に銀行へ「この日に一括返済します」と伝えておく必要がある。銀行によっては1か月ほど前の連絡が必要なので、売買契約が決まったらすぐに連絡しておきたい。
登場人物:住み替えを考える鈴木さん
- 10年前に買ったマンションに住んでいる
- ローンの残り(残債):2,800万円
- 査定では、3,000万円前後で売れそう
鈴木さんは架空の人物で、数字は説明用の仮定だ。
まず「残債」と「手取り」を比べる
大事なのは、売った金額ではなく、費用を引いた手取りが残債を上回るかどうかだ。3,000万円で売れた場合を計算してみる。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 3,000万円 |
| 仲介手数料(上限) | −約106万円 |
| 抵当権を消す費用・司法書士 | −数万円 |
| ローンの一括返済手数料 | −数千〜数万円(銀行による) |
| 売買契約書の印紙税 | −1万円前後 |
| 手取り | 約2,885万円 |
残債2,800万円を返して、手元に残るのは約85万円だ。これを「アンダーローン」と呼ぶ。この状態なら、何の問題もなく売れる。
ただ、売却価格3,000万円のうち手元に残るのが85万円というのは、思ったより少ないと感じるかもしれない。売った金額から残債を引くだけでは、手取りを見誤る。費用の約110万円を忘れないことだ。
残債のほうが多い「オーバーローン」の場合
では、残債が3,200万円だったらどうなるか。手取り約2,885万円では、約315万円足りない。これを「オーバーローン」と呼ぶ。
足りない分を埋めない限り、抵当権は消せないので、家は売れない。選択肢は3つある。
1. 足りない分を自己資金で払う
一番シンプルな方法だ。貯金から315万円を出して、決済日にローンと一緒に返す。
2. 住み替えローンを使う
次の家を買うローンに、今の家の足りない分を上乗せして借りる方法だ。借入額が新しい家の価値を上回るので、審査は厳しくなり、金利も高めになることが多い。返済負担が重くなる点は覚悟しておきたい。
3. 任意売却
ローンの返済がすでに難しくなっている場合、銀行の同意を得て、残債より安い値段で売る方法がある。これを任意売却という。残った借金は、銀行と話し合って分割で返していくことになる。
ただし、任意売却は基本的に返済が滞ったあとの手段で、信用情報にも影響する。住み替えのために使うものではない。返済が苦しいと感じたら、滞納する前に銀行へ相談するのが先だ。
売る前にやる3つのこと
- 残債を確認する:銀行から届く返済予定表か、ネットバンキングで確認できる。「だいたい」ではなく、売る予定の月の残高を正確に出す。
- 成約価格を調べる:査定額ではなく、実際に売れた値段を調べる。調べ方は「その家、いくらで売れる?」で紹介している。
- 手取りを計算する:成約価格から、仲介手数料などの費用を引く。それが残債を上回るかどうかで、売り方が決まる。
まとめ:ローンは「売れない理由」ではない
住宅ローンが残っていることは、家を売れない理由にはならない。見るべきなのは、手取りと残債の差だけだ。
逆に言えば、この差を知らないまま次の家を探し始めるのが一番危ない。気に入った家を見つけてから「実はオーバーローンでした」となると、住み替えの計画ごと崩れてしまう。まずは電卓で、手取りと残債を並べるところから始めてほしい。