中古マンションの物件情報を見ていると、修繕積立金が驚くほど安い部屋がある。毎月の支払いが少ないのは、住む人にも貸す人にもうれしい。ただ、その安さが「お得」なのか「足りていない」のかは、物件情報だけでは分からない。
私は、修繕積立金が建物の古さの割に少ないと分かっていながら区分マンションを買い、のちに管理費・修繕積立金をほぼ2倍に値上げされた(区分マンション投資でやらかした話)。その記事の最後で触れたのが、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」だ。この記事では、このガイドラインを使って、自分の部屋の積立金を確かめる方法を紹介する。
ガイドラインの「目安」とは何か
国交省のガイドラインは、実際の長期修繕計画の事例を集めて分析し、修繕積立金の目安を「専有面積1㎡あたり、1か月いくら」という単価で示している。最新版は令和6年6月に改訂されたもので、366事例をもとにしている。
ここで大事なのは、目安が「計画期間全体での修繕積立金の平均額」だということだ。今払っている額ではなく、長期修繕計画の期間(新築なら30年以上)を通して、平均でいくら積み立てる計画になっているかを比べるための数字である。
目安の額(令和6年6月改訂版)
| 建物の区分 | 建築延床面積 | 事例の3分の2が入る幅 | 平均値 |
|---|---|---|---|
| 地上20階未満 | 5,000㎡未満 | 235〜430円/㎡・月 | 335円/㎡・月 |
| 地上20階未満 | 5,000〜10,000㎡未満 | 170〜320円/㎡・月 | 252円/㎡・月 |
| 地上20階未満 | 10,000〜20,000㎡未満 | 200〜330円/㎡・月 | 271円/㎡・月 |
| 地上20階未満 | 20,000㎡以上 | 190〜325円/㎡・月 | 255円/㎡・月 |
| 地上20階以上 | ― | 240〜410円/㎡・月 | 338円/㎡・月 |
延床面積は、マンション全体の床面積のことだ。パンフレットや長期修繕計画書などで分かる。表を見ると、延床面積5,000㎡未満の小さなマンションは単価が高めに出ている。
機械式駐車場があるマンションは、この単価に駐車場の分を上乗せする。ガイドラインでは、機種ごとの1台あたりの修繕工事費(月額)が示されている。
| 機械式駐車場の機種 | 1台あたり(月) |
|---|---|
| 2段昇降式 | 6,450円 |
| 3段昇降式 | 5,840円 |
| 3段昇降横行式 | 7,210円 |
| 4段昇降横行式 | 6,235円 |
| エレベーター方式・垂直循環方式 | 4,645円 |
| その他 | 5,235円 |
上乗せする単価は「1台あたりの修繕工事費 × 台数 ÷ マンションの総専有床面積」で計算する。
計算してみる
ここでは、架空のマンションで計算してみる。
- 地上10階、建築延床面積7,000㎡
- 総専有床面積4,900㎡
- 自分の部屋の専有面積70㎡
機械式駐車場がない場合
延床面積7,000㎡なので、「5,000〜10,000㎡未満」の行を使う。
| 単価 | 70㎡の部屋の月額 | |
|---|---|---|
| 幅の下限 | 170円 | 11,900円 |
| 平均値 | 252円 | 17,640円 |
| 幅の上限 | 320円 | 22,400円 |
3段昇降式の機械式駐車場が30台ある場合
上乗せ分は、5,840円 × 30台 ÷ 4,900㎡ ≒ 36円。ガイドラインの計算例と同じく、平均値は252円+36円で288円/㎡・月になる。70㎡の部屋なら月20,160円だ。
自分の部屋と比べる
ここで、長期修繕計画に書いてある数字を使う。ガイドラインでは、計画期間全体の平均額を次の式で出す。
(計画当初の積立金の残高 + 計画期間に集める積立金の総額 + 駐車場使用料などからの繰入額の総額)÷ 総専有床面積 ÷ 計画期間(月数)
たとえばこの計算で150円/㎡・月になったとしたら、目安の幅(170〜320円)を下回っている。このとき、今の月額がいくら安くても、それは「お得」ではない。将来の値上げか一時金で、足りない分を払うことになる可能性が高い。
「今の額」が低いのはどこまで普通か
長期修繕計画には、最初は安く、だんだん値上げしていく「段階増額積立方式」を採っているマンションも多い。新築のときは月額が低く設定されていることがある。
ガイドラインでは、段階増額積立方式の場合の引上げの幅の目安として、「計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内」としている。基準額とは、計画期間を通じて同じ額を積み立てる場合(均等積立方式)の月額のことだ。
つまり、今の積立金が計画全体の平均の6割にも届いていないなら、この先の値上げ幅はかなり大きくなると考えたほうがいい。
確かめるときの手順
- 延床面積・階数・総専有床面積・自分の専有面積を調べる:重要事項調査報告書やパンフレット、長期修繕計画書で分かる
- ガイドラインの表から単価の幅と平均値を拾う:機械式駐車場があれば上乗せする
- 長期修繕計画から、計画期間全体の平均単価を出す:上の式に当てはめる
- 今の月額が平均の何割かを見る:低ければ、値上げがいつ、どのくらいの幅で予定されているかを計画で確認する
- 総会の議事録で、値上げの議論を確かめる:計画どおりに値上げできているか、先送りされていないか。読み方は総会の議事録、どこを読めばいい?にまとめた
目安から外れていたら、すぐダメなのか
ガイドラインは、目安の範囲に収まっていないからといって直ちに不適切というわけではない、という立場だ。建物の形や設備、計画の考え方によって必要な額は変わる。大事なのは、長期修繕計画の中身と、それに対して積立金が見合っているかを確かめることだ。
買う人・売る人の目線で言えば、こう考えておくといい。
- 買う人:積立金が目安より大幅に安いなら、値上げ後の金額で毎月の支払いを計算し直す。投資用なら、値上げ後の利回りで買うかどうかを決める
- 持っている人・売る人:積立金が計画どおり貯まっているマンションは、買い手から見て安心材料になる。値上げは痛いが、先送りし続けると、売るときに「この先の値上げ」が値段から引かれることになる
まとめ:積立金の安さは、電卓1つで確かめられる
修繕積立金が足りているかどうかは、専門家でなくても、ガイドラインの表と長期修繕計画があればおおよそ確かめられる。
物件情報の「修繕積立金」の欄は、今月の値札でしかない。その部屋が本当に安いのかは、30年分の計画と並べて、初めて分かる。