すでに入居者が住んでいる部屋を、入居者ごと買う。これがオーナーチェンジ物件だ。投資用の区分マンションでは、よく見かける売り方である。
買ったその月から家賃が入ってくる。空室の心配もいらない。いいことずくめに見えるが、私がオーナーチェンジで買った区分マンションは、管理費・修繕積立金の値上げで手残りが半分になり、今は「入居者さんに長く住んでもらえることを祈っている状態」だ(区分マンション投資でやらかした話)。
入居者が頼みの綱になる。これはオーナーチェンジ物件の構造そのものだ。この記事では、メリットと落とし穴、そして法律で決まっている引き継ぎのルールを整理する。
オーナーチェンジ物件のメリット
- 買ったときから家賃が入る:入居者募集の期間がないので、最初の数か月を空室で過ごす心配がない
- 実績のある家賃が分かる:「この家賃で、実際に借りている人がいる」という事実は、想定家賃よりも確かだ
- 募集の費用がかからない:広告料やリフォームなど、入居者を探すための出費が当面いらない
落とし穴1:中が見られない
一番大きいのは、部屋の中を見られないことだ。人が住んでいるので、内見はふつうできない。
見られないということは、次のことが分からないということでもある。
- 床や壁、水回りの傷み具合
- 給湯器やエアコンなど設備の古さ
- 間取りや日当たりが、写真や図面とどれくらい違うか
これらは、入居者が退去したときに一気に表に出てくる。築年数が古いほど、次の人に貸すためのリフォーム費用は大きくなりやすい。買うときには、「退去したらリフォームにいくらかかるか」を最初から計算に入れておきたい。
部屋の中は見られなくても、共用部分は見られる。エントランス、廊下、ゴミ置き場、掲示板。管理の状態は、ここにかなり表れる。
落とし穴2:賃貸借契約は、そのまま引き継ぐ
オーナーが変わっても、入居者との賃貸借契約は終わらない。民法では、賃貸借が対抗要件を備えている不動産が譲渡されたとき、賃貸人の地位は譲受人(買った人)に移ると定めている(第605条の2第1項)。建物の賃貸借は、登記がなくても、建物の引渡しがあれば、その後に建物を取得した人に対して効力を生じる(借地借家法第31条)。
かみ砕くと、こうなる。
- 家賃や契約期間などの条件は、前のオーナーが決めたものをそのまま引き継ぐ。買ったからといって、勝手に家賃を上げることはできない
- 買った人が入居者に「自分が新しい大家だ」と主張するには、所有権の移転登記が必要になる(第605条の2第3項)
- 賃貸人の地位は、入居者の承諾がなくても、売主と買主の合意で移せる(第605条の3)
落とし穴3:敷金を返す義務も引き継ぐ
見落としやすいのが敷金だ。民法では、賃貸人の地位が移ったとき、敷金を返す債務は買った人が引き継ぐとされている(第605条の2第4項)。
つまり、入居者が前のオーナーに預けた敷金を、退去のときに返すのは新しいオーナーだ。売買の決済のときに、売主から敷金に相当する額を精算してもらうのが一般的だが、契約書でどう扱うかは必ず確かめておきたい。精算がないまま買うと、自分が受け取っていない敷金を、退去時に自分のお金から返すことになりかねない。
落とし穴4:自分で住みたくなっても、すぐには住めない
「今は貸しておいて、いずれ自分で住もう」と考えて買う人もいる。ただ、普通の賃貸借契約(普通借家)では、大家の側から更新を断ったり解約を申し入れたりするには、正当の事由が必要になる(借地借家法第28条)。「自分が住みたいから」だけで、すぐに出てもらえるとは限らない。
一方、契約の更新がない定期建物賃貸借(定期借家)なら、期間の満了で契約が終わる(借地借家法第38条)。同じオーナーチェンジでも、どちらの契約かで、将来の選択肢は大きく変わる。
空室の部屋とオーナーチェンジ、比べるとこうなる
| 比べること | 空室で買う | オーナーチェンジで買う |
|---|---|---|
| 家賃が入り始めるまで | 入居者が決まるまで入らない | 買ったときから入る |
| 部屋の中 | 内見できる | ふつうは見られない |
| 家賃や契約条件 | 自分で決められる | 前のオーナーのものを引き継ぐ |
| 敷金 | 新しく預かる | 返す義務を引き継ぐ |
| 自分で住む | すぐ住める | 契約によっては、すぐには住めない |
| 退去のとき | ― | リフォーム費用と空室期間が一度に来る |
買う前に確かめたいこと
- 賃貸借契約書の写し:家賃、契約期間、更新の条件、普通借家か定期借家か。特約に変わった取り決めがないか
- 敷金の額と、決済での精算方法:売買契約書にどう書かれているか
- 入居者の入居期間と家賃の支払い状況:長く住んでいて滞納がないか。入居時期が古く、家賃が今の相場より高い場合は、次の入居者のときに下がる可能性がある
- 退去時のリフォーム費用の見込み:築年数と入居期間から、ざっくりでも見積もっておく
- 管理費・修繕積立金と、総会の議事録:家賃が変わらなくても、ここが上がれば手残りは減る。読み方は総会の議事録、どこを読めばいい?、積立金の確かめ方は修繕積立金は足りている?にまとめた
売る側から見たオーナーチェンジ
入居者がいる部屋を売るときは、買い手がほぼ投資目的の人に限られる。投資目的の買い手は、家賃から管理費や修繕積立金を引いた手残りで利回りを計算して値段を決める。つまり、管理費・修繕積立金が上がった部屋は、家賃が同じでも値段が下がりやすい。
空室にしてから売れば、自分で住みたい人も買い手になる。ただ、退去してもらうには時間がかかり、その間は家賃が入らない。入居者付きで売るか、退去を待つかは、どちらの買い手が多い立地かも含めて考えたい。
まとめ:オーナーチェンジは「中身の見えない箱」を、契約ごと買うこと
オーナーチェンジ物件は、家賃がすぐに入る分、買う人が引き受けるものも多い。見られない部屋の中、前のオーナーが決めた契約、預かっていない敷金、そして入居者が出ていく日のリフォーム代。
利回りの数字は、入居者が住み続けてくれることが前提だ。買う前に、「入居者が退去したら、この部屋はどうなるか」を一度だけ計算しておいてほしい。
参考
- e-Gov法令検索「民法」(第605条の2、第605条の3)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(第28条、第31条、第38条)