物件情報に「〇〇駅 バス10分 停歩3分」と書いてある。駅まで13分なら、徒歩12分の家とたいして変わらないじゃないか。そう思った人は、ちょっと待ってほしい。
バス便の家の体験記では、バスに揺られる時間は案外悪くない、と書いた。ただ、時間がかかるのも、到着時間が読めないのも本当だ。この記事では、その「かかる時間」と「お金」を電卓で並べてみる。
広告の「分」には、決まった計算ルールがある
不動産の広告に書かれる所要時間は、業界の自主ルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」の施行規則で、書き方が決められている。バス便の家に関係するのは、主に次の3つだ。
| 書いてあること | ルール |
|---|---|
| 徒歩◯分 | 道路距離80メートルを1分として計算する。1分未満の端数は1分に切り上げ |
| バス◯分 | バス停から駅までのバスの所要時間。電車やバスの所要時間は、朝の通勤ラッシュ時のものを示す(平常時の時間を、その旨を書いて並べることはできる) |
| 停歩◯分 | 家から最寄りのバス停までの徒歩時間。計算は上の徒歩と同じ |
つまり「バス10分 停歩3分」は、家からバス停まで歩いて240メートル以内、バスに乗っている時間が10分、という意味だ。バスを待つ時間、遅れ、降りてから改札までの時間は、どこにも入っていない。 ここが落とし穴である。
なお、80メートル1分は信号待ちや坂道を考えない計算なので、徒歩の数字自体も実際より短く出やすい。
実時間を足し算してみる
ここからの数字は、すべて説明のための仮の数字だ。実際の物件では、時刻表と道路事情で大きく変わる。
比べるのは、駅まで徒歩8分の家(A)と、バス10分・停歩3分の家(B)。
| 項目 | A:駅徒歩8分 | B:バス10分・停歩3分 |
|---|---|---|
| 家からバス停・駅まで歩く | 8分 | 3分 |
| バス停での待ち時間(時刻表に合わせて出ても、少し早めに着く) | ― | 3分 |
| バスに乗っている時間 | ― | 10分 |
| 遅れに備える余裕 | ― | 5分 |
| バスを降りて改札まで | ― | 2分 |
| 合計(片道) | 8分 | 23分 |
広告の上では「8分 対 13分」、差は5分に見える。ところが実際に家を出る時刻で比べると、差は15分に広がる。
往復なら1日30分。月に20日通勤すると10時間、1年で120時間になる。1日8時間労働に直すと、年に15日分だ。
雨の日や年末の渋滞、本数の少ない時間帯を考えると、余裕の5分はもっと必要な日もある。逆に、10分に1本以上走っている路線なら、待ち時間はほぼ気にならない。どちらに転ぶかは、朝の時間帯の本数でほとんど決まる。
お金を並べてみる
次はお金だ。こちらも仮の数字である。
| 項目 | 月 | 年 |
|---|---|---|
| 家賃の差(Bのほうが安い) | 2万円 | 24万円 |
| バスの定期代(自己負担の場合) | 1万円 | 12万円 |
| 終バスを逃したときのタクシー代(年に数回) | ― | 1万円 |
ポイントは定期代を誰が払うかだ。会社が通勤手当を出してくれるなら、バス代の自己負担はほとんどない。ちなみに電車やバスだけで通う人の通勤手当は、1か月15万円までなら所得税がかからない(国税庁)。一方、リモートワークで定期を持たない人や、家族の通学定期は自分で払うことになる。
時間に「値段」をつけるかどうかで、答えが変わる
年120時間を、仮に時給1,500円で換算すると18万円になる。これを足すと、3つのケースに分かれる。
| ケース | Bで増える負担(年) | Bで浮く家賃(年) | 差し引き |
|---|---|---|---|
| 定期代は会社持ち、時間はお金に換算しない | 1万円 | 24万円 | 23万円得 |
| 定期代は会社持ち、時間を時給で換算 | 19万円 | 24万円 | 5万円得 |
| 定期代は自己負担、時間も換算 | 31万円 | 24万円 | 7万円損 |
同じ家でも、どう数えるかで得にも損にもなる。バスの時間を本を読む時間、ぼんやりする時間として楽しめる人は、上の行に近い。毎朝イライラしながら時計を見る人は、下の行に近い。
買う場合は「何年分か」で考える
買う場合は、価格差を年間の負担で割ってみると感覚がつかみやすい。
たとえば同じ広さで、Bが駅近のAより500万円安いとする。上の表の一番下のケース(年31万円の負担)なら、500万円÷31万円で約16年分。16年住むまでは、Bのほうが得という計算になる。定期代が会社持ちで時間を換算しないなら、500万円÷1万円で、ほぼ一生分の差だ。
ただし、買う場合は売るときのことも頭に入れておきたい。バス便の家は、駅から歩ける家より売るときの値段が下がりやすい。安く買えたぶん、安くしか売れない可能性がある、ということだ。売るときのコツはバス便の家を売るとき・貸すときのコツにまとめた。
自分の「実時間」を確かめる方法
- 朝の通勤時間帯に、実際にバスに乗る:家を出てから改札を通るまでを、ストップウォッチで測る
- 時刻表で、朝7〜8時台の本数を数える:10分に1本と30分に1本では、待ち時間がまるで違う
- 終バスの時刻を見る:遅くなる日が月に何回あるか、そのときタクシー代がいくらかを考えておく
- 通勤手当の扱いを確認する:会社がバス代まで出すか、上限はあるか
- 雨の日にもう一度測る:一番遅い日の時間を知っておくと、毎朝の余裕を決めやすい
バスの本数が将来減るリスクについては、バスの時刻表の見方と「減便・廃止」リスクで調べ方を紹介している。
まとめ:「バス10分」は、家から駅までの時間ではない
広告の「バス10分」は、バスに乗っている時間だけだ。待ち時間と遅れを足すと、駅近との差は広告の見た目の何倍にもなりうる。
とはいえ、その差を「損」と数えるかどうかは人による。定期代を誰が払うか、バスの時間をどう過ごすか。この2つを決めてから電卓を叩くと、バス便の家が自分にとって安いのか高いのかが見えてくる。