低層マンションの広告や不動産会社の説明で、「資産価値が落ちにくい」という言葉をよく見かける。
私も低層マンションの最上階に住んだことがある。プライバシーがあり、目線が高く、タワマンより静か。住む前は「最強」に見えたし、実際に魅力のある住まいだった(低層マンションの最上階は最強、のはずだった)。
では、資産価値の面でも本当に強いのか。この記事では、その言葉の根拠を一つずつ確かめてみる。
先に結論:「低層だから落ちにくい」とは言い切れない
まず確認しておきたいのは、低層マンションだけを取り出して、値下がりのしにくさを比べた公的な統計は見当たらないということだ。
「落ちにくい」と言われる理由はある。ただ、それは「低層だから」というより、低層マンションが建ちやすい場所の特徴によるところが大きい。そして、低層ならではの弱点もある。両方を見たうえで、物件ごとに判断する必要がある。
「落ちにくい」と言われる理由
周りの環境が変わりにくい
低層マンションの多くは、第一種低層住居専用地域などの、低い建物しか建てられない地域にある。
国土交通省の説明では、第一種低層住居専用地域は「低層住宅のための地域」で、建てられるのは住宅のほか、小規模な店舗や事務所を兼ねた住宅、小中学校などに限られる。建物の高さは10mか12mまで(どちらにするかは自治体が決める)と決められ、隣の土地の日当たりを守るための日影規制もかかる。
つまり、目の前に高いマンションが建って眺めや日当たりが急に悪くなる、ということが起きにくい。住環境が長く保たれやすいことは、買う人にとって安心材料になる。
たくさんは建たない
建てられる高さや大きさが限られているので、同じエリアに大量のマンションが供給されることは少ない。似た物件が一度に売りに出て値段を下げ合う、という状況にはなりにくい。
住宅地として人気の場所にあることが多い
低い建物しか建たない地域には、落ち着いた住宅地として人気のある場所も多い。値段を支えているのは、建物の高さそのものより、この「場所の人気」だと考えたほうがいい。
見落としやすい弱点:戸数が少ないこと
低層マンションは、1棟あたりの戸数が少ない。これは静かさやプライバシーにつながる一方で、お金の面では弱点にもなる。
管理費・修繕積立金が割高になりやすい
エレベーターや外壁、屋上の工事などの費用は、戸数が少なくてもある程度かかる。それを少ない戸数で分けるので、1戸あたりの負担は重くなりやすい。
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(2024年6月改訂)でも、規模の小さいマンションのほうが、床面積あたりの修繕積立金の目安が高くなっている。
| 建物の規模(地上20階未満) | 修繕積立金の目安(月・専有面積1㎡あたり) |
|---|---|
| 延床面積5,000㎡未満 | 平均335円(235〜430円) |
| 延床面積5,000〜10,000㎡ | 平均252円(170〜320円) |
※ 機械式駐車場がある場合は、別に加算が必要。
70㎡の部屋で単純に計算すると、平均の目安は月2万3,450円と月1万7,640円。同じ広さでも、小さいマンションのほうが毎月6千円ほど多くかかる計算だ。
一人あたりの影響が大きい
戸数が少ないと、1戸が管理費を滞納したときの影響も大きくなる。理事などの役員が回ってくる頻度も高くなる。話がまとまりやすいという良い面もあるが、管理がうまくいくかどうかが、住んでいる一人ひとりに強くかかってくる。
売りに出る部屋が少なく、相場が見えにくい
戸数が少ないマンションは、売りに出る部屋も少ない。過去の取引が少ないと、いくらで売れるかの相場が見えにくい。買う側も、比べる材料が少ないぶん慎重になる。
規制は、建て替えのときに効いてくる
第一種低層住居専用地域の規制は、住環境を守る一方で、将来の建て替えを難しくすることもある。
建て替えでは、戸数を増やして新しい部屋を売り、その代金で費用の一部をまかなう方法がある。ところが、高さや容積率が低く抑えられている地域では、戸数を増やす余地がほとんどないことが多い。また、古いマンションには、今の規制ができる前に建てられて、今のルールでは同じ大きさに建て直せない(既存不適格)ものもある。
築年数が古い低層マンションを買うなら、「建て替えはできるのか」より先に、「長く使い続けるための修繕ができるか」を見ておいたほうが現実的だ。
管理状態が、いちばん値段を左右する
結局のところ、中古マンションの値段を大きく左右するのは、立地と管理の状態だ。低層でもタワマンでも、それは変わらない。
私は投資用に買った区分マンションで、修繕積立金が足りていないのを分かっていながら買い、のちに管理費と修繕積立金がほぼ2倍に値上げされた。その結果、買い手から見た部屋の価値も下がってしまった(区分マンション投資でやらかした話)。戸数の少ない低層マンションでは、こうした値上げの影響が一人ひとりにより重くかかる。
買う前に確かめたいこと
- 用途地域を調べる:自治体の都市計画図で、マンションと周りの土地がどの用途地域かを確かめる。周りに何が建ちうるかが分かる
- 修繕積立金をガイドラインと比べる:今の積立金が目安より大幅に低いなら、値上げの可能性を考えておく(修繕積立金は足りている?)
- 長期修繕計画と積立金の残高を見る:今後の工事に対して、お金が足りているか
- 総会の議事録を読む:値上げや滞納の話が出ていないか(総会の議事録、どこを読めばいい?)
- 過去の取引価格を調べる:国土交通省の「不動産情報ライブラリ」などで、近くの中古マンションの成約価格の傾向を見ておく
売る側の目線:強みを具体的に伝える
低層マンションを売るときは、「低層だから価値がある」と言うだけでは弱い。買い手が知りたいのは、具体的な中身だ。
- 周りに高い建物が建ちにくい用途地域であること
- 修繕積立金が計画どおり貯まっていること、大規模修繕の履歴
- 住人の数が少なく、落ち着いていること
管理の状態が良いことを書類で示せれば、戸数の少なさは「割高な管理費」ではなく「手入れの行き届いた建物」として伝わりやすい。
まとめ:「低層だから」ではなく「この物件だから」で判断する
低層マンションが「資産価値が落ちにくい」と言われるのには、それなりの理由がある。周りの環境が変わりにくく、供給が少なく、人気の住宅地にあることが多い。
ただ、それは低層マンションならどれでもいい、という意味ではない。戸数が少ないぶん、管理費・修繕積立金は割高になりやすく、管理の良し悪しが値段に直結する。言葉のイメージではなく、用途地域と管理の書類で確かめてほしい。